

カスタマーズ・サティスファクション 顧客満足という言葉がある。ある工務店の社長が業界新聞紙上でこう述べていた。「うちはお客様第一です。これまでお客様のおっしゃるとおりに家を建ててきました。ですから、お客様には常に満足していただいております」。カンの良い方なら、ただちに、「あれ、そりゃ違うよ」と思われるように、こういう考え方は“顧客満足”からは程遠い。いくら、最近の施主が家づくりに対して勉強しているからと言っても、やはり相手は素人。部分のイメージは設計者や工務店に伝えられるが、トータルで考えられることの出来る施主は稀である。やはり、要所要所は専門家がきちんと押さえるべきである。また、「お客様のおっしゃるとおり」ではなく「お客様のイメージ以上に」家を建ててこそプロだと思う。 設計が決まっている 最初から悪い予感はしていた。今思えば、断っていれば良かったのだが、私の優柔不断さがこの事態を招いてしまったのだ。今回の設計依頼は変則的だった、というか政略的欺瞞に満ち溢れていた。うすうす、気付いてはいたのだが・・・。 話は、旧知の工務店のG社長からの電話から始まる。 「先生、アパートの設計をやってもらえませんか?」 話を聞くとこうだ。施主(となる)Dさんは、佐賀県の農家の地主で、農地を減反し、今流行りのアパート経営をやりたいと言っている。Dさんは今回で3棟目のアパート建設で、アパート経営に対してはこっちより詳しい。 すでに、アパート建設では全国区のT社が話を進めていた。けれども、Dさんは家賃保証をするかわりに建設後、管理費を取り続けるというT社のシステムがいやだという。G社長はそこにつけ入り、切り札として私の名前を出したのだ。「大学の先生が設計をしてくれますよ」と。 G社長が私のところに来て、T社と契約をする前にこっちで仕事をとりたい。先生、なんとかしてくれ。時間が無い、イメージスケッチだけでも良いから何か描いてくれ、と言う。相手が県外ということもあり、敷地も見ずに、施主とも会わずにイメージスケッチを描く。 だけど私はこうしたい 2日後スケッチを持って、G社長と高速を飛ばし佐賀のDさんのところに行く。 スケッチを見せる。 Dさん「かっこいい外観だけど、私はこうしたい」とおもむろに自分のファイルから図面を出して広げて見せる。なんと!T社の図面だ。それは南欧風の輸入住宅みたいな外観であった。 結局G社長は契約をとる。その後なんとなく、そのまま設計を引き受ける形になり、図面を作成し何度か打ち合わせに行く。その度に、「ここはこうしてくれ、ここの色は何色にしてくれ」と言われる。いくつかの提案も、ことごとく却下される。 とどのつまり、施主のDさんにはあらかじめ自分の中にイメージが出来上がっていたのだ。部品のカタログも自分で取り寄せ、これにしてくれと提示してくる。つまり、ドアの取っ手や外灯のデザイン、室内の照明器具、キッチンの色、外壁のイメージ全てが出来上がっていたのである。施主が全てを決め、指示するのだから、現場の進行は早い。Dさんのアパートは、ほどなく完成する。こうして、日本の農村にひとつ南欧風の奇妙な景色が一つ加えられたのである。 (独白) 少なくとも、今回の私の仕事はプロのそれとは程遠いものであった。仕事の達成感も何もない、ニガイ仕事であった。果たして、Dさんは満足したのだろうか。 |
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